大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

福島地方裁判所 昭和33年(レ)45号 判決

控訴人 小沢善助

被控訴人 根本友喜

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

原判決主文第二項を次のとおり改める。

控訴人は被控訴人に対し別紙目録記載の建物につき所有権移転登記手続をせよ。

事実

控訴代理人は、「原判決を取消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張及び証拠関係は、控訴代理人において、

一、控訴人が甲第一号証の一、二の印鑑証明書と売渡証を小林初江に交付したのは、当時本件建物の敷地の所有者と称する訴外木崎幸八の財産管理人であつた小林初江から、滞納していた数年分の地代を一時に支払うよう請求されたので、これが代物弁済としてなしたものであるから、控訴人において木崎幸八に本件建物を譲渡したというならば格別、小林初江に譲渡する理由はないのである。

二、かりに控訴人が小林初江に本件建物を贈与したものであつたとしても、本件建物の敷地は大正一二年五月一八日既に木崎幸八から鉄道省に売渡され、同人の所有には属しなかつたものであるから控訴人としては木崎幸八に賃料を支払う義務がなかつたのに、同人を所有者と誤信した結果、右賃料支払のためになした譲渡の意思表示は重要な部分に錯誤があり無効である。

三、被控訴人の後記自白の撤回には異議がある

と述べ。当審証人高橋岩松、小沢三郎の各証言及び当審における控訴人本人尋問(第一回)の結果を援用し、甲第四ないし第七号証、第八号証の一、二、第一〇号証、第一三号証、第一四、一五号証の各一、二、の成立を認めその余の甲各号証の成立は知らないと述べ。被控訴代理人において、

一、被控訴人は本訴において第一次に本件建物につき直接の移転登記手続を求め、予備的に債権者代位権の行使による訴外小林初江、川島卯之吉等に代位して移転登記を請求するものである。

二、被控訴人は昭和三三年一一月一〇日の口頭弁論期日において、本件建物が会津高田町字柳台甲二三三〇番の二、地上に建つていることを認めたのは、真実に反し且錯誤に基くものであるから右自白を取消す。

三、控訴人の抗弁事実を否認する。

と述べ、甲第四ないし第七号証、第八号証の一、二、第九ないし第一三号証、第一四号証の一、二、第一五号証の一ないし四を提出し、当審証人小林初江、堤千代の各証言及び当審における被控訴人、控訴人(第二回)各本人尋問の結果を援用すると述べた外、原判決事実摘示のそれと同一であるから、これを引用する。

理由

別紙目録記載の建物がもと控訴人の先代小沢八郎の所有であつたが、同人は昭和一一年一月八日死亡したので控訴人において家督相続によりその所有権を取得し、これが所有権移転登記を経由したことは当事者間に争がない。

成立に争のない甲第一号証の一ないし三、原審証人小林初江の証言によつて成立を認める甲第二号証、原審証人川島恒雄の証言によつて成立を認める甲第三号証、原審及び当審証人小林初江、原審証人川島恒雄、当審証人小沢三郎の各証言及び当審における被控訴人本人尋問の結果を綜合すると、控訴人は昭和一八年一月三〇日別紙目録記載の建物を訴外小林初江に贈与したので、同人は昭和二〇年八月五日これを訴外川島卯之吉に贈与したこと及び被控訴人は昭和二二年八月一三日川島卯之吉から本件建物の贈与を受けこれが所有権を取得したことを、それぞれ認めることができる。原審及び当審における控訴人本人尋問(当審は第一、二回)の結果中右認定に反する部分は採用できないし、他に右認定を覆えすに足りる証拠はない。

そこで控訴人の抗弁事実について判断する。この点につき、被控訴人は昭和三三年一一月一〇日の口頭弁論期日において本件建物が字柳台甲二、三三〇番の二地上に存在していることを自白したが、右自白が真実に吻合しないものであることは後記認定に照らし明かであるから、他に反証のない限り、該自白は被控訴人の錯誤に出でたものと認むべく、従て被控訴人が昭和三四年一月二六日の口頭弁論期日でなした右自白の取消は有効である。

而して成立に争のない甲第四号証、第八号証の一、二、第一〇号証、第一四号証の一、二(二は乙第三号証と同じ)、第一五号証の二、乙第四号証、当審における被控訴人本人尋問の結果によつて成立を認める甲第一五号証の三(甲第一一号証と同じ)原審及び当審証人小林初江、当審証人堤千代の各証言及び当審における被控訴人本人尋問の結果に弁論の全趣旨を綜合すると、訴外木崎幸八は会津高田町字柳台甲二、三三〇番に土地を所有していたが、順次分割してこの内二、三三〇番の二を鉄道用地として鉄道省に売渡し、昭和二〇年七月七日二、三三〇番の一宅地一七四坪六合を更に同番の一宅地八四坪三合と同番の五宅地九〇坪三合とに分筆し、前者を堤千代に売渡すと共に後者を被控訴人に売渡したのであるが、本件建物は右二、三三〇番の五地上に存在するものであること及び鉄道用地たる二、三三〇番の二と附近の私有地とは堀や枕木の焼杭によつて判然と区別され、この境界線より北方の鉄道用地には民家は存在しないのであるから、右境界線の南方にある本件建物は鉄道用地に存在するものではないことが認められる。もつとも登記簿上は現在二、三三〇番の二地上に存在するかの如く記載されているけれども、前掲甲第六号証(乙第二号証と同じ)、成立に争のない甲第一四号証の一、乙第四、六号証、原審証人長峯正の証言及び弁論の全趣旨を綜合すると、本件建物はもと前記二、三三〇番の一(その後二、三三〇番の一と五に分割されたことは前掲のとおり)地上に存在する旨登記されていたが控訴人は、昭和三二年六月一〇日頃家督相続に因る所有権移転登記をなすに当り、本件建物が土地台帳上二、三三〇番の二地上に存在する如く登載されていることを発見したので、登記手続を委任された司法書士長峯正は、実地につき何等の調査もすることなく、慢然更正登記をなした結果、かゝる錯誤を生ずるに至つたものであることが認められるから、右登記簿の記載があるからといつて前叙認定の妨げとなるものではないし、他に前叙認定を左右するに足りる証拠はない。従つて本件建物が、字柳台甲二、三三〇番の二地上に存在していることを前提とする控訴人の抗弁事実は採用できない。

してみれば、本件建物につき被控訴人は川島卯之吉に対し所有権移転登記の請求権を有し、川島卯之吉は小林初江に、小林初江は更に控訴人に対し、順次所有権の移転登記請求権を有するのであるから、被控訴人は民法第四二三条に基き控訴人に対する小林初江の所有権移転登記請求権をも代位行使し得ることは勿論であるけれども、本件においては前叙各所有権の移転はすべて贈与によるものであることは前示認定のとおりであるから、直接控訴人に対し被控訴人が本件建物の所有権移転登記手続を求めることを認めても、いわゆる中間者の利益を害することにはならないものと解すべきである。

以上の次第で被控訴人の本訴請求は爾余の点について判断するまでもなく正当として認容すべきであり、これと同趣旨に帰する原判決は正当であるから本件控訴は理由がないものとして棄却すべきところ、原判決は別紙目録記載の建物につき控訴人に対し贈与による所有権移転登記手続を命じているので、主文第三項のとおりこれを改めることとし、民事訴訟法第三八四条、第九五条、第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 檀崎喜作 大政正一 軍司猛)

目録

大沼郡会津高田町字柳台甲二三三〇番の五

(登記簿上 宇柳台甲二三三〇番の二)

家屋番号 第三番

一、木造亜鉛板葺二階建店舗 一棟

建坪 六坪 二階坪 六坪

一、木造亜鉛メツキ鋼板葺平家建物置 一棟

建坪 二六坪

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例